怖い顔。
島田さんは、怖い顔をしていた。
目の前のあっちゃんは、泣いていなかったけど、それはただ、乾いてしまったから。あっちゃんを知る人なら、それは簡単に見分けがつくだろう笑顔だった。
「ビールおかわりと、んーなんか臓物系が食べたい。」
と、店員さんを呼んで明るくオーダーしている間も
島田さんは怖い顔をしていた。
「なぁ。」
なんだか痛そうな声だった。
「なぁ、あっちゃん。裁判も何もしてないわけ?慰謝料もなしなわけ?」
あっちゃんは笑う。
「知らない間に話が済んでたんだよね。」
「あっちゃん、シマくんの養育費ももらってないよね。なんで?」
「んー、わからない。」
島田さんが腹を立てていたのは、過去の男たちなのか、あっちゃんになのか
島田さん本人にもわからなかった。
「あっちゃん。アホだな。まわりも何も言わないのか?親は?」
そう、珍しく憤る島田さんに、あっちゃんは笑顔をやめて
無表情になった。
あどけない無表情だった。
「いいの。私みたいな人もいるの。」
島田さんにはわからなかったけど
不器用で、繊細で、感じすぎるけど、何も感じなくなっていて、とても哀しく、頑張らなくても笑顔になれる世界が
確かにあるのだった。
島田さんは、思った。
あっちゃんは、俺で大丈夫だろうか。
しかしその疑問が、たまらなくあっちゃんを寂しくさせることも
いざとなったら何も言わずにあっちゃんが去っていくこともわかっていたので
そのまま一緒にいてみよう。と思い直した。