2.オレンジ、ピンク、緑の蔓。
私に見えている世界が、みんなには見えていない。
それを知ったのはいつだったか。
ホットケーキの匂いはオレンジ色には見えないし
人の足跡はピンク色ではないし
ピアノの音は緑の蔓になって私に向かって伸びてくるわけではない。
トイレの中で梨の木から生まれた小さな女の子が話しかけてきたりしない。
最初は私だって、みんなを疑った。
だったらどうやっていい匂いだってわかるの?
どうやって音楽を聴いているの?
色のない世界はつまらなくないの?
そのうち、だんだんわかってきた。
口に出さない方がいい。
おかしいのは私の方なんだ。
コッソリ。それでいいじゃない。
私は突然笑ったり、1人でビックリしたり、独り言の多い子になった。
そりゃあ変だったと思う。
友達もそんなにいなかった。
それでも、同じクラスの野蛮な男の子やいじわるな女の子より、梨の木から生まれた小さな女の子と話している方が楽しいからよかったのだ。
お母さんやお兄ちゃんが私をたたく時も、たたいた音は石のように飛んで弾けてまわりに散らばった。
暗いところに閉じ込められても、匂いがすれば暗闇は映画館になる。
私はこの色とりどりの世界と、小さな友達に助けてもらいながら、子ども時代を乗り切った。
服はいつも灰色と茶色だったけど、目に見える世界は、クラスの誰よりもカラフルだったはずだ。
息子のシマくんは、朝ごはんを食べながら1人で話している。
キャキャっと笑ったり、もう知らない。と横を向いたりしている。
シマくんのお友達は、どんなカタチをしているんだろう。
いつか聞いてみたいと思っている。