1.はじめに。

あっちゃんは、不思議な女の子だった。


少し変で、笑っていてもすぐ泣き出すんじゃないかと心配になってしまう女の子だった。


あっちゃんはいつもお母さんの話をしてくれた。

お母さんが選んでくれた灰色のスカートをはいて

お母さんが選んでくれた茶色い靴をはいていた。


あっちゃんが本当は何を考えていたのか、誰も知らない。

14歳の時、初めてあっちゃんを抱いた男の子も

20歳の頃、一緒に暮らしたアリネイも。


あっちゃんは今、32歳になった。

小さな男の子と、小さなアパートに住んでいる。


そのアパートの部屋でたった今、男の人と向かい合って座っている。

いつものように力の抜けた顔をして、真っ昼間からビール缶を開けたあっちゃんは、言った。


「私の話をしてもいいかな。」